「紹介状を書くので、大きい病院に今すぐ行ってください。」
かかりつけ医にそう言われたとき、私は「はい、わかりました」としか返せなかった。
入院の10日ほど前から、息子の顔色が悪くなっていた(血の気がなく白っぽい感じ)。心配になり、かかりつけ医で診てもらい採血。
「ヘモグロビンが少し低いですね。貧血です」と言われ、鉄分のシロップを処方された。
それからは毎日欠かさずシロップを飲ませていたけれど、顔色は一向に良くならない。
1週間前には38度台の熱も出たが、食欲もあり、連休中だったこともあって3日ほど様子を見ることに。
3日目には37度台に、4日目には36度台に下がり、ひと安心……と思った矢先、息子の口からアンモニアのような匂いがした。
「ん?」と思い、すぐにネットで調べる。
風邪のときには細菌の影響で口臭が強くなることもあるらしい、と書かれていたので、それなら……と納得してしまった。
実はこの頃から寝汗もひどくなっていたけど、微熱のせいだろうと深く考えなかった。
入院の前日、朝から「おなかが痛い」と言う息子。
「今も痛い?」と聞くと、「もう痛くない」と言うけれど、お腹が少し張っているのが気になった。
その日は病院に行けなかったため、翌日、夫に午後の有休を取ってもらい、下の子を見てもらって病院へ。
診察とレントゲンの結果、「肝臓と脾臓が腫れています」と言われる。
そして、こう伝えられた。
「紹介状を書きますので、今すぐ〇〇病院(市内でいちばん大きな病院)に行ってください。」
紹介状を受け取り、急いで紹介先の病院へ。
到着すると、すぐに先生が診察してくれた。
前の病院での検査結果や、鉄分シロップの服用、熱の経過などを改めて説明。
その後、採血・点滴・レントゲンなど様々な検査が始まり、やがて先生から伝えられた。
「白血球が異常に多く、ヘモグロビンは極端に少ない。ほかの数値もすべて正常とはいえません。
すぐに県内でいちばん大きな病院に救急車で向かってください。」
頭の中が一気にパニックになった。
すぐに夫に連絡し、母に下の子の面倒を頼む。
2時間ほど救急車に揺られながら、息子と一緒に転院先の病院へ向かった。
その間ずっと考えていた。
「もし死んでしまったらどうしよう……」
「もっと早く病院に行っていれば……」
「これは私のこれまでの悪い行いの報いなのかもしれない……」
ぐるぐると、終わりのない思考が頭の中を巡った。
“元気で生きてくれているだけで、十分だったんだ”
“頭が良くなってほしいとか、いい大学に行ってほしいとか、そんなの全部どうでもよかった”
今さら、ようやくそのことに気づかされた。
転院先の病院に着くと、先生や看護師さんたちがすぐに輸血や点滴などを施してくれた。
「急性白血病の疑いがあります」と伝えられ、簡単に(でも丁寧に)病気の説明を受けた。
「詳しいお話は、また明日しましょう」と。
すでに日付は変わり、時刻は午前3時近くになっていた。
ようやく、入院1日目の夜が終わろうとしていた。